谷崎潤一郎 「文章読本」

言葉を惜しむということ
最初読んだ時には
その意味がわからなかった
多くの言葉を紡ぎだすことこそ
むずかしいのではないのかと
しかし私たちの
目の前にある世界は
無限に拡がっている
書くべきことは幾らでもある
その中からエッセンスを
抽出して書くこと
これが大事なことなので
あろうと思う
谷崎は自身の著作においても
ここはもっと文章を
縮めることができたであろう
箇所を指摘し
そこに傍線を引いて
示している
谷崎の文体を見ると
言葉が意識の拡がりと共に
溢れだしてきているかの
ように見える
しかし実際には
谷崎は1日4枚程度しか
書けなかった
出版社数社に
それぞれ金を前借りし
少しづつ原稿を書いて
その借金を返していく
ひとつ義理を果たすと
またその次が待っていて
その果てしない
繰り返しだったという
そのエッセイでは
この文章も
そういった経緯で
書いているのだ
といった締めくくりが
為されていた
文章を紡ぐことは
やはり苦労なくして書けない
それでも言葉は
世界のエッセンスの抽出だから
みだりに言葉数を
増やすようではいけない
これは陰翳礼讃の思想にも
繋がってくる
谷崎でしか
決して語ることの
できなかった
哲学がそこにある