朝吹真理子 「流跡」

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先に出た単行本のデザインより
この文庫のデザインの方が好きです
格調高く、実に素晴らしい…

朝吹真理子
1984年12月19日生まれ
慶應義塾大学大学院国文科修了

プロフィールに
吉増剛造を囲む会での
スピーチを聞いた編集者から
小説を書くよう熱心に勧められた…とあるので
もともとは詩文学に深い造詣のある
人であったのかもしれません

「流跡」を『新潮』2009年10月号に発表
2010年には第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞

2011年、「きことわ」(『新潮』9月号)で
第144回芥川賞受賞

世間的には「きことわ」の方が
有名であるかもしれませんが
自分はむしろ今回紹介する
「流跡」の方を推します

もし目の前に例えば
ひとつの林檎があって
人としての意識が
はっきりしていれば
それを認識できる
しかし意識が朦朧として
それをはっきり知覚できなかったら?
その時そこに目の前に
林檎があるということは
その人にとっては
まるで意味のないことと化す
人間の意識以前の領域に
踏み込んだ作品が
まさにこの「流跡」ということです
それまでの小説は
意識された以降の事柄しか
扱ってこなかった
しかし21世紀後の文学では
こういった無意識以前の領域や
集合的意識のような分野まで
その扱う範囲が
拡がっていくのではないかと
そういった意味で
エポックメイキング的な
佳作であると感じます。
世間は朝吹さんの凄さに
まだ気づいていない
「きことわ」の文体も
確かに素晴らしいですが
本当に注目すべきは
この「流跡」であった
そういった意味で
歴史が変わる瞬間を
人々は見過ごしてしまっている
そんな気がします

文庫併録の「家路」も
素晴らしい小品で
無意識の領域に気づくことが
魂のありように気づくこと
それが人を幸せに導いていくこと
である気がします
そういった意味で
2014年に
この本が文庫化された時は
とても嬉しかった記憶があります
お勧めです